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03_4 しょうがないな 樹side

last update Last Updated: 2025-06-13 04:53:58

「今まで人を好きになったことないんですか?」

「うーん……」

これまた真剣に考え始める。こちらが頭を悩ませそうなくらいに頭を悩ませている。そもそも姫乃さんは人気があるのだから、彼氏募集中ですなんて言った日にはあちらこちらから声がかかるに決まっている。それはもう、いい男から悪い男まで、姫乃さんを自分のものにしたいやつがわんさかと……。

そこまで考えて、それは嫌だなと思った。

姫乃さんがぼんやりしている人だということを知っているのは俺だけでいい。姫乃さんが綺麗だけじゃなくて可愛いということも、俺だけが知っていればいい。誰にも知られたくない、独占欲というやつがわいた。

だったらどうしたらいい?

姫乃さんを俺の手元に置いておく方法。

「しょうがないな、じゃあ俺が彼氏になってあげますよ」

「ええっ!」

「いろいろ練習したいでしょ?」

「練習?」

「恋人ができたときの練習ですよ」

こうすれば姫乃さんを俺のものにできる。姫乃さんは押しに弱いから、絶対頷くと思った。姫乃さんが他の男のものになるのが考えられなくて、そう提案した。けれどそれは俺が姫乃さんを好きだともとれるわけで……。

姫乃さんを好きかどうか。考えたこともなかったけど、好きなのかもしれないなと思う。やばいな、俺の考えもぼんやりしている。姫乃さんに流されているのかもしれない。

そんな俺の気持ちにはまったく気づいていない様子の姫乃さんは百面相のように表情を変えたあと、「よろしくおねがいします」とカタコトに頷いた。

調子に乗った俺はデートをしようと提案した。これまた顔を真っ赤にして動揺しているのだが、いったい何を想像しているのだろう。

行きたいところがあるとやたらテンションが高くなった姫乃さんは、いつもとはまた違った、子供のように楽しそうな顔をして笑った。

微笑ましすぎてこちらもつられて笑った。

なんだかとても心が浮ついた。
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  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   04_1 初デート 姫乃side

    大野くんとのデートの日。 デートという言葉に踊らされているのだろうか、なかなか寝つけなかったし朝も早くに目が覚めてしまった。デートってどんな服を着ていけばいいのだろう。デートなんてしたことがないからわからない。散々洋服を出し入れして考えたあげく、結局出勤時と変わらない服になってしまった。理想だとかやってみたいことはたくさんあるけど、これは練習なんだから、ダメなところは大野くんに指摘してもらえばいいのだ。そうだ、そういうことなんだよ。というわけで、私がデートに選んだ場所は博物館だ。 デートっぽく待ち合わせをしたいと思って博物館前集合って決めたのに、マンションを出たところでさっそく大野くんに出会ってしまった。「あ……おはよう」「おはようございます。一緒に行きますか」「そうだね。そうしよう」意気込んでいたのに拍子抜けしてしまって、何だかくすぐったくて笑えてしまう。待ち合わせのときめきはなくなってしまったけれど、これはこれで何かいいな。……って、私ったらものすごく楽しみにしてるみたいじゃないか。大野くんは私の練習に付き合ってくれてるだけなのに。平常心、平常心。 落ち着け私。落ち着け、落ち着け。電車は意外と混んでいて、座る場所がない。大野くんは私を端っこに寄せて、吊革を握る。会社で見る大野くんはスーツを着ているから、私服がなんだか新鮮。カジュアルなシャツにパンツ、スニーカー。背が高いから私よりも目線が上。大野くんってイケメンだな……なんて眺めていたら、急に電車がガタっと揺れて勢いのまま大野くんの胸にダイブした。「うぐっ!」思い切り鼻をぶつけた。大野くんが「大丈夫?」と覗き込んでくる。 うわー、めちゃくちゃ恥ずかしい。 大丈夫大丈夫と鼻を擦っていると、くすりと笑われてしまった。「ぼんやりさん」「だって電車が急に揺れるんだもの」「はいはい、つかまっててください」そう言われたので大野くんの袖を掴んだ。 大野くんは一瞬目を見開いて「そこかー」と呟く。 何か間違えたらしい。慌てて手を離そうとしたけれど、「それでいいです」と微笑まれたので、そのまま掴んだ。うーん、デートって、難しい。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   03_4 しょうがないな 樹side

    「今まで人を好きになったことないんですか?」「うーん……」これまた真剣に考え始める。こちらが頭を悩ませそうなくらいに頭を悩ませている。そもそも姫乃さんは人気があるのだから、彼氏募集中ですなんて言った日にはあちらこちらから声がかかるに決まっている。それはもう、いい男から悪い男まで、姫乃さんを自分のものにしたいやつがわんさかと……。そこまで考えて、それは嫌だなと思った。姫乃さんがぼんやりしている人だということを知っているのは俺だけでいい。姫乃さんが綺麗だけじゃなくて可愛いということも、俺だけが知っていればいい。誰にも知られたくない、独占欲というやつがわいた。だったらどうしたらいい?姫乃さんを俺の手元に置いておく方法。「しょうがないな、じゃあ俺が彼氏になってあげますよ」「ええっ!」「いろいろ練習したいでしょ?」「練習?」「恋人ができたときの練習ですよ」こうすれば姫乃さんを俺のものにできる。姫乃さんは押しに弱いから、絶対頷くと思った。姫乃さんが他の男のものになるのが考えられなくて、そう提案した。けれどそれは俺が姫乃さんを好きだともとれるわけで……。姫乃さんを好きかどうか。考えたこともなかったけど、好きなのかもしれないなと思う。やばいな、俺の考えもぼんやりしている。姫乃さんに流されているのかもしれない。そんな俺の気持ちにはまったく気づいていない様子の姫乃さんは百面相のように表情を変えたあと、「よろしくおねがいします」とカタコトに頷いた。調子に乗った俺はデートをしようと提案した。これまた顔を真っ赤にして動揺しているのだが、いったい何を想像しているのだろう。行きたいところがあるとやたらテンションが高くなった姫乃さんは、いつもとはまた違った、子供のように楽しそうな顔をして笑った。微笑ましすぎてこちらもつられて笑った。なんだかとても心が浮ついた。

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    自分でもなぜそんな約束を取り付けたのか、理解しがたい。 姫乃さんと、毎日一緒に夕食を食べるという約束。ただなんとなく、姫乃さんを誰かにとられたくない独占欲が働いて……。って、まるでそれでは俺が姫乃さんを好きみたいじゃないか。だけど姫乃さんが会社では見せない表情をくるくる見せるたび、ドキリと胸が高鳴る。この人は本当はどんな人なのか、知りたくなる。もっと暴きたくなる。仕事中の姫乃さんはやはりいつも通りの姫乃さんで、姿勢よく真面目に業務に取り組んでいた。見た目、優等生タイプ。まわりの男性陣が姫乃さんの近くを通るたびにチラ見していく。「今日も綺麗だな」「俺たちの癒し」そんなことを呟きながら。 それには俺も同意する。姫乃さんは綺麗なのだ。柔らかい雰囲気が、見てるだけで癒されるし。定時を過ぎても姫乃さんは凛として仕事をしている。姿勢が崩れないのはすごいと思うけど、あれは世界に入って戻ってこないやつじゃないか?「姫乃さん、何時までやります?」「え? あっ! もう定時越えてる?!」声をかければ案の定、時計を見て驚く。完全に世界に入っていたな。 姫乃ワールド面白い。夕飯一緒に食べようと言ったら、頷きながら頬を赤らめた。 そんな姿が少しいじらしく感じられて、嬉しくなった。

  • 強引な後輩は年上彼女を甘やかす   03_4 しょうがないな 姫乃side

    本当に、彼氏ってどうやってつくるんだろう。つくりかた、わからない。「今まで人を好きになったことないんですか?」「うーん……」どうだっただろうか。いいなって思った人はいたような気がするけれど、恋愛に発展だとかそういうの、全然ない。比較的早くから私には彼氏がいるって思われてたから。大野くんは顎に手を当てて考えるような素振りをしてから、ふうと息を吐きだした。「しょうがないな、じゃあ俺が彼氏になってあげますよ」「ええっ!」何? 何? どういう状況? 大野くんが彼氏に? ちょっと待って、思考が追い付かない。わたわたしている私に、大野くんはクスリと笑う。「いろいろ練習したいでしょ?」「練習?」「恋人ができたときの練習ですよ」恋人ができたときの練習……!た、確かに、何をしたらいいかわからないから、それはありがたいかもしれない。私のダメなところもいろいろ指摘してほしい気がするし。でも、いいのかな? そんな後輩に甘えるようなことしちゃって。大野くんをおずおずと見ると、頬杖をつきながら余裕の表情で私の答えを待っている。大人だ。どう考えても私より大人。後輩なのに。「えっと、じゃあよろしく、オネガイシマス」私の答えに、大野くんは満足そうに微笑んだ。「さっそくですが今週の日曜日、デートしましょう」「でっ、デート?! ど、どこへ?」「どこがいいです? 姫乃さん行きたいところあります?」デートだなんて、と思いながらも行きたいところがピーンと閃き、私は、はいっと手を挙げた。「ある! あります!」前のめりな私に、大野くんはまた楽しそうに笑った。

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